【特集:高齢者向け賃貸住宅で“親と子の近居ブーム”はなぜ起きているのか】世代交代進むシニアたち「ときどき会うくらいがいい」

いま、「近居(きんきょ)」が静かなブームを呼んでいます。

近居とは、親世帯と子世帯が気軽に行き来のできる近い距離に住むこと。
何かあったときに助け合える距離でありながら、同居と違いプライバシーを守れる点などが人気の理由です。

特にここ数年は、高齢になった親が子どもの家の近くの高齢者向け賃貸住宅へ転居するケース(いわゆる「呼び寄せ」)が増える一方で、子どもとの同居は減っています。

そんな「同居ではなく、ほど良い距離感の“近居”」がなぜ好まれるのでしょうか。

今回は、これまで当サイトでお伝えしてきた各種の調査データや入居者の実例といった情報(記事)を取りまとめ、世代交代に伴う親と子の意識の変化などを探ってまいります。

【目次】
第1話【高齢期の住替えを考える】要介護の親を呼び、近くで暮せませんか?
第2話 親と子が近くで暮す「近居」はブーム呼ぶ?! 大幅増の調査データ発表
第3話【国が近居ブームの実態調査】本音は「子供の世話になりたくない」
第4話【老後の暮しを国が調査】誰と暮す?最多は「子どもとは別居がいい」
第5話【4ヵ国の高齢者調査】日本と外国ではシニアの生活意識はどう違う?

第1話【高齢期の住替えを考える】要介護の親を呼び、近くで暮せませんか?

子世代の皆さん、介護が必要な親の住まいはどうしますか?
もしも自分の親が“介護の必要な状態”になったとしたら、まず何をすればいいのでしょうか。

ご相談いただいたSさん(58歳・女性、東京・北区在住)とお父さま(89歳)のケースをご紹介します。

故郷から突然の電話「お父さまが病院へ搬送され・・」

お父さまは妻に先立たれ、仙台市内の自宅で一人暮らし。
娘のSさんは突然の仙台からの電話に驚かされました。

「先ほどお父さまが散歩の途中、転んで大けがをして、病院に搬送されました。骨折の治療でしばらく入院することになりそうです」

Sさんが東京から仙台まで大急ぎで駆けつけたことは言うまでもありません。

幸い命に別状はなく、安堵しましたが、その後の経過についてはリハビリも順調。
3ヶ月を経て無事に退院することができました。

40年暮らした仙台を離れたくない!

そして、このときお父さまもSさんも「どうしたらいいのだろう」と悩んだのが、これからの生活のことです。

今回のケガを機に“要介護1”の認定を受けたお父さま。
また同じように仙台で一人暮らしを続けるのか、それとも東京のSさんの自宅近くに転居するのか、という二者択一で考え始めました。

Sさんは一人娘ですから、お父さまに何かあれば、すぐに自分が寄り添ってあげたいと思うのは子どもの心情として当然でしょう。
しかし、Sさんは東京でご主人や子どもたちと家庭を築き、毎日家事をこなす一方で、仕事にも就いています。

「仙台まですぐに駆けつけるのは難しいですね。父には私の家の近くで暮らしてほしいと思っています」

ところが、お父さまはまったく違う考えでした。

「40年近く住んでいる仙台には友人が多いし、思い入れもあるので離れたくないな。今の自宅をバリアフリーなどに改修すれば、まだまだ住み続けられるはずだ」(→「バリアフリー」とは?

第2話 親と子が近くで暮す「近居」はブーム呼ぶ?! 大幅増の調査データ発表

アクティブシニア対象の高齢者向け賃貸住宅に住み替える人たちが、いま増えています。

そんな中、「親と子の“近居”の割合が大幅に伸びている」との調査リポートが発表されました。

2年前の2019年3月に63%だった「近居」が、今年6月に初めて7割を超えたことが分かったのです。

⇒【ペットと暮せる「高齢者向け賃貸住宅」特集】アクティブシニアにおすすめ!東京都内の「ペット共生型住宅」4選

「近居」が初めて7割を超えた!

この調査データは、アクティブシニア向けの賃貸住宅を運営する旭化成ホームズ(東京・千代田区)が7月26日に公表したものです。
同社の高齢入居者1,272名の属性を分析したところ、次のことが分かりました(2021年6月末のデータ)。

➊子ども世帯との近居(住み替え後)が、7割を超えた。
<2019年3月末の63%から、約10ポイントも増えた>
➋入居者の平均年齢は79歳で、75歳以上の後期高齢者が8割弱を占めた。
➌介護保険の認定を受けていない人が85%で、健常者の割合が高い。
➍夫婦2人で入居している世帯が3割を占めた。

第3話【国が近居ブームの実態調査】本音は「子供の世話になりたくない」

今回の調査データは、内閣府(政策統括官)が公表した「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」(2018年度)。
調査員が60 歳以上の男女1,870 名に面接して意向を聴取し、取りまとめたものです。

「老後は子供が世話をするもの」から「子供には頼りたくない、世話になりたくない」という意識が60~70代を中心に広がるなか、今回の調査では「同居は否定しながらも近居を求める人」が3 割前後もいることが分かりました。

調査結果のポイントは次の通りです。

近居を希望する人の特徴(傾向)とは

子供がいるという1,687名に、『子と同居や近居をしたいと考えていますか?』と尋ねました。

今回「近居」の定義については、『住居は異なるものの、日常的に往来できる範囲〈同一中学校区内程度(約6㎞以内・車で15 分以内程度)〉に居住すること』としています。

その結果は―。

1位「子供と同居したい」(34.8%)
2位「同居ではなく近居がしたい」(29.0%)
3位「同居も近居もしたくない」(18.9%)
4位「同居か近居のどちらかをしたい」(9.6%)

⇒【60歳からのシニア女性専用シェアハウス】離れて暮す高齢の親を呼び寄せたい!

次のような傾向が見られました。

➊「同居派」の主な傾向

⑴女性が多い
・60 代の女性では「近居したい」が最多でしたが、70 代以降の女性は「同居したい」の方が上回っています。
女性は年齢が上がるほど「同居したい」が多くなり、「近居したい」が少なくなったのです。
⑵年齢の高い高齢者に多い
・80歳以上では男女とも「同居したい」が約5割を占めました。
⑶配偶者がいない人に多い

➋「近居派」の主な傾向

⑴女性が多い
⑵年齢の低い(若い)高齢者に多い
⑶現在、子供と別居している人に多い

この調査結果に対しては、公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団の澤岡 詩野主任研究員がこう論評しています。

『年齢が低くなるほど、近居を求める人が多くなっている。
こうした若い高齢世代(親世代)は、同居を前提にした家族規範が当たり前の祖父母の世代に対し違和感を持っていることが考えられます。
調査結果は、世代間の価値観ギャップの現れではないでしょうか。
また、同居や近居を求める人が男性に少ないのは、一国一城の主でいたいという家長としてのプライドの現れとも言えます』

第4話【老後の暮しを国が調査】誰と暮す?最多は「子どもとは別居がいい」

出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」

「あなたは、老後は誰とどのように暮らすのがよいと思いますか?」

内閣府が実施した「国民生活に関する世論調査」(平成27年度)では、そんな質問を投げかけています。

その回答の選択肢については大別すると、「子どもと同居したいか?」「子どもの近くに住みたいか?」「別々に暮らしたいか?」の3つです。

「子どもとは別々に暮らしたい」がトップ

今回の調査結果を、次のようにまとめてみました。

【同居派】計23.7%
➊「息子(夫婦)と同居したい」11.9%
➋「娘(夫婦)と同居したい」5.8%
➌「どの子(夫婦)でもよいから同居したい」6.0%

【近居派】計33.3%
➍「息子(夫婦)の近くに住みたい」7.8%
➎「娘(夫婦)の近くに住みたい」7.2%
➏「どの子(夫婦)でもよいから近くに住みたい」18.3%

【別居派】計36.3%
➐「子どもたちとは別に暮らしたい」36.3%

第5話【4ヵ国の高齢者調査】日本と外国ではシニアの生活意識はどう違う?

「日本と外国では、高齢者の生活意識はどのくらい違うんだろう」。
そんな問題意識を持って、国が長年にわたり調査しています。

内閣府が1980年から5年ごとに実施している「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(全8回)です。
最近(2015年度)では日本とアメリカ、ドイツ、スウェーデンの4ヵ国を対象とし、60歳以上の男女2800人(施設入所者除く)に個別面談でさまざまな問題について聴いています。

今回は、〝子供や孫とのつき合い方〟をめぐる日本と欧米の異なる価値観について見てみましょう。

【編集部より】日本でニーズ高まる「親と子の〝近居〟」

日本の高齢者は40年前の第1回調査より一貫して、「子供や孫とは、いつも一緒に生活できるのがよい」(同居)を望んでいました(最多の回答)。

しかし、「ときどき会って食事や会話をするのがよい」が2005年(第6回)の調査で初めて最多となって逆転。それ以降は両者の差(数値)がどんどん広がっています。
核家族化が進んでいくなか、同居(大家族志向)を希望する高齢者は年を追うごとに少なくなったのです。

そんな日本では昨今、新たな動きとして〝近居〟のニーズが高まってきました。
同居と比べると、各世帯のプライバシーが守れますし、「ときどき会える」のが人気の理由の一つです。

元来アメリカでは、40年前から常にトップの回答(6~7割)は「ときどき会うくらいがいい」であり、同居を望まない自立した考え方が定着しています。

日本の高齢者も時代(世代交代)とともに、欧米の価値観に近づいているのでしょうか。

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