先の大戦が終わった8月を迎え、この夏、手に取りたい一冊の本があります。
昭和史研究の第一人者、作家の半藤 一利(はんどう かずとし)さんの著書『戦争というもの』(今年5月刊行)。今年1月に90歳で亡くなられた半藤さんの最後の原稿です。
戦争を体験したり、戦後まもない苦難の時代を過ごした世代の人たちは、読み進めると、さまざまなことが思い起こされるのではないでしょうか。
詳細をご紹介します。
今夏、あの戦争に思いを致す
「昭和史」「日本のいちばん長い日」など、数々のベストセラーを遺した半藤一利さん。
本書『戦争というもの』では、「まえがき」でこう書き出しています。
『いまの日本では、日本がアメリカと三年八ヵ月にわたる大戦争をしたことを知らない人がいっぱいいる。
かなりの大人のなかにも「それでどっちが勝ったの?」とわたくしに尋ねる人さえいるのです』
昭和20年の東京大空襲で、溺死する寸前だったという凄惨な体験をした半藤さん。
「戦争を知らない世代のために、これだけはいま書き残しておかなければならない」と話し、編集者である実の孫娘に本書の原稿を託しました。
昨年から病院のベッドの上で書かれたそうです。
戦争を“名言”で読み解く書
半藤さんが最後に日本人へ伝えたかったことは、何だったのでしょうか。
本書では、太平洋戦争下の軍人たちの言葉や流行したスローガンなど、あの戦争を理解するうえで欠かせない「名言」の意味とその背景について、分かりやすく解説しているのです。
半藤さんは戦時下のこんな「言葉」を取り上げています(一部抜粋)。
〇「一に平和を守らんがためである」(山本五十六)
〇「理想のために国を滅ぼしてはならない」(若槻礼次郎)
〇「敗因は驕慢の一語に尽きる」(草鹿龍之介)
〇「特攻作戦中止、帰投せよ」(伊藤整一)
〇「沖縄県民斯かく戦へり」(大田 実)
“戦争の残虐さ”語りつづけ
今年は、太平洋戦争の開戦から80年という節目の年。
半藤さんは「戦争とはどのようなものか」について、こう著しています。
『戦争の残虐さ、空しさに、どんな衝撃を受けたとしても、受けすぎるということはありません。
破壊力の無制限の大きさ、非情さについて、いくらでも語りつづけたほうがいい。いまはそう思うのです』
そして、こう続けています。
『九十歳の爺さんがこれから語ろうとするのは、そんな非人間的な戦争下においてわずかに発せられた人間的ないい言葉ということになります。
名言とはいえないものもまじりますが、将来のための教訓を読みとることができるでありましょう。(中略)
そういう意味で〈戦時下の名言〉と裏返していえるのではないかと思うのです』
孫娘に託した“平和への願い”
本書の編集者は、前述した半藤さんの孫娘の北村淳子さんですが、編集後記ではこんな言葉で結んでいます。
『この本は、祖父が最後に私に手渡してくれた平和への願いそのものでした。
本書が、祖父母から孫へ、戦争を知る世代から知らない世代へ受け継がれる、そんな一冊になることを、祖父とともに心から願っています』
❑PHP研究所 YouTubeチャンネルはこちら【本書の紹介動画】
【おすすめの新刊本】
書名:「戦争というもの」
著者:半藤 一利
出版社:PHP研究所
定価:1,430円(税込)
発売日:2021年5月13日
頁数:単行本 176ページ
■著者略歴
半藤 一利(はんどう かずとし)
1930(昭和5)年、東京生まれ。東京大学卒業後、文藝春秋に入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長などを経て、作家となる。1993(平成5)年に『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、1998年に『ノモンハンの夏』で山本七平賞を受賞する。『決定版 日本のいちばん長い日』『聖断―昭和天皇と鈴木貫太郎―』など多数の著書がある。
本記事と画像の出典:PHP研究所 公式サイト、Amazon.com
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