能登半島地震の被災地ではいま、避難所へ行くことができず、自宅に留まらざるを得ない孤立した高齢者をいかに支援するかが課題となっています。
そんななか、被災地の賃貸住宅では不動産管理会社の果たす役割が重要となり、管理会社向けの「防災マニュアル」を現場でどう活かせるかが注視されているところです。
東日本大震災などの過去の教訓を盛り込んだというこのマニュアルは、管理会社の心強い味方となっているのでしょうか。
かつての大震災の教訓は活かせるか
いま注目の防災マニュアルは、(公財)日本賃貸住宅管理協会(通称:日管協)東京都支部が2023年10月に発行した実用書。書名は『防災マニュアル~「過去の大震災に向き合った」賃貸住宅管理業者の情報と行動』(以下「本書」)です。
災害発生前の事前準備から発生直後、その後の復興期に至るまで、それぞれの時期に管理会社が行うべきことを詳細に示しています(全234ページ)。
今回の能登半島地震に当たっては、日管協本部が発生の直後、この防災マニュアルを被災地の同協会・石川県支部に送付しました。
現在、支部会員の管理会社は本書を活用しながら現場の対応に追われているところです。
人の命を預かる管理会社は何をすべき?
本書の作成を責任者として統括した日管協・東京都支部の荻野 政男副支部長(編纂委員長)は、こう話しています。
『地震のほか、豪雨など災害が多発している今、管理会社は人(入居者)の命を預かっているという意識を忘れてはいけないと思います』
首都直下地震などの発生が懸念されるなか、平時から災害に備えておくことの重要性を業界の内外で語っています。
では、同マニュアルの内容(一部)について紹介いたします。
震災の日、管理会社はどう動いたか
本書の見どころは、阪神淡路や東日本、熊本などの大震災で被災した全国の賃貸住宅管理会社の体験記(教訓など)が数多く盛り込まれていることです。
それぞれの震災では火災や津波、建物倒壊など被災の状況が異なり、二次災害の内容も違うため、さまざまな備えが必要なことが理解できます。
➊安否確認と避難誘導〈災害時〉
❑『最も優先したのは入居者の安否確認と二次被害を防ぐことでした。戸別訪問と電話で状況を確認し、公設の避難所への避難を誘導。合わせて、建物への立ち入りを制限する内容の張り紙を作り、はって回りました』
❑『初期の調査で柱基礎部分の損傷を見落としたことで二次被害発生リスクを放置する結果に。震災発生から2週間後、入居者に報告したが、怒りを招いてしまった。初期被害調査マニュアルの必要性を痛感しました』
❑『倒壊の恐れのある建物の入居者には、住み替えられる物件を紹介。数に限りはあったものの、1週間ほどで入居していただけました。一般の部屋探しの方よりも優先して紹介した結果です』
❑『管理物件が全壊したため、当社において罹災証明書を入手し、被災された入居者に配り、支援給付金の申込みに利用してもらいました』
❑『エレベーターに閉じ込められた人がいたが、救出方法の知識がなかった』
❑『震災で半壊し、入居者と「まだ住める、住めない」で口論となったが、時間をかけて説得し、立ち退いてもらった。敷金は全額返金しました』
➋家賃減額要請への対応〈災害から1週間〉
被災した管理物件においては家賃減額要請への対応や入居者の安全確保、盗難防止対策、金融決済の体制づくりを行います。
❑『家賃の免除や減額の要望だけでなく、さまざまな要求に対応するのが難しかった』
❑『家賃の減額はほぼ要求どおりの対応をしました』
➌被災者支援制度の情報提供〈災害から2週間〉
大規模災害で適用される公的な支援制度や補助金などの情報を平時から集め、被災した入居者や家主が生活の再建に動き出すとき、適切に情報提供できるようにします(たとえば行政が罹災証明書を発行する判断基準、地震保険の支払い基準など)。
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発生前から復興期まで対応策示す
本書は管理会社のみならず、不動産オーナーが災害時でも資産を守り、事業を継続するために備えておくべきこと(保険の活用、他)を解説し、オーナーにとっても有益な情報を盛り込んでいます。
第1部 事前の準備
第2部 災害発生直後
第3部 災害発生から1週間
第4部 災害発生から2週間
第5部 災害発生から1カ年
第6部 復興期に向けて
特に重要な「災害発生直後」の局面では管理会社に次の対応を求めています。
⑴大規模震災発生後の避難
⑵従業員の安否確認
⑶店舗事務所内の被害確認
⑷社内体制の整備と対応方針の決定
⑸クレームの電話応対と対処方法
⑹交通・通信手段の確保と対応策
⑺入居者・家主の安否確認
⑻管理物件の被害状況の確認
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